ぼくが森の生活を営む、ここニュージーランドの湖に暮らす、ラブリーで少しおかしな仲間たちを紹介するシリーズ。今回は、60歳を超える米国人、そしてこの湖一番の釣り名人・テッドについて。
「釣り」が理由で、ぼくがこの国のこの場所に移住してきたことは、これまで何度か書いてきたとおり。
ご存じのように、釣りには無数のジャンルが存在する。釣り場だけをとっても、海、湖、池、沼、河口付近の川、中流域の大河、渓流域、源流域と、挙げはじめたらキリがない。
釣法にも、「生のエサ」を使う釣りと、エサを模して人間が作る「疑似餌」を使う釣りがある。
さらに、それぞれに多種多様ある。「エサ釣り」で言うと、生きたもの、死んだもの、加工したものが。
「疑似餌釣り」には、それぞれの国に固有の手法があり、さらに細分化されていく。木を使ったもの、プラスティックを使ったもの、鳥の羽を使ったものなど、ここのカテゴリーに関しては、文字どおり“無数”に存在する。そして、ぼくをこの地まで導いた釣りは、ズバリ「レイク・フライフィッシング」。
まず、フライフィッシングを簡単に解説しよう。「疑似餌釣り」のひとつで、その中でも、主に鳥の羽を使って「フライ」と呼ばれる「毛バリ」を、自身の手で作るという、英国で生まれ、米国で発展を遂げた、西洋の伝統的な釣り方のひとつ。
さらに、このフライフィッシングにも、いくつかの流儀があり、ぼくが偏愛してきたのは、湖でのフライフィッシング。実はこれ、かなりマニアックなもので、まったく同じ嗜好を持つ釣り人には、なかなか出会えない。我が人生でも、ぼくと同じくらいこの釣りを愛している人と出会ったのは、わずか3、4人。その一人が、前述のテッドなのだ。
彼がここの湖にいるのは、春から秋にかけて。それ以外の期間は、米国の東海岸メイン州の、湖の畔に暮らしている。つまり、いい季節ごとに移動しながら、一年を通して湖畔で生活していることになる。
これまで、ぼくほどの「湖マニア」には会ったことがないが、彼こそが唯一、ぼくと“タメを張る”か、それ以上の湖マニア。そんな愛しき「ヘンジン」と出会え、仲間になれることも、ここのレイクカルチャーの魅力なのだ。
そしてフライフィッシングのプロとしての顔を持ち、自分なりに湖でのフライフィッシングを究めてきたぼくは、ここの集落でも「ダイスケは釣りがうまい」と評されることが多いが、テッドには敵わない。
彼は「釣り名人」以外にも、「朝7時の男」という称号も得ている。彼は毎朝7時にボートを出し、いつものお気に入りエリアへ向かい、お昼前には戻ってくる。悪天候か、彼が二日酔いの日以外は、必ずぼくの自宅テラスからこの時間、彼のボートを目撃することができる。
とにかく彼はたくさん釣る。その理由として、「この湖を知り尽くしている」、「釣りの技術が高い」、「経験豊富」、そして彼が作る「毛バリが美しい」ことが挙げられる。
テッドには、もうひとつの趣味がある。それは、ビールを造ること。ぼくはビールは飲めないのだが、彼が無類の酒好きなうえに、手先が器用なためか、彼の造るビールは飲めるのである。そんな彼と話すのは90パーセント近くが湖上だが、そういった理由もあって、彼とは陸上で杯を交わす機会も意外に多いことに、この原稿を書いていて気づいた。
今は冬で彼はいない。彼と釣り談議ができる春が待ち遠しい。