山梨県都留市に住み、大学時代は学生と地域の人が交流するコミュニティカフェの経営を、現在はシェアハウスやウェブのキャリアスクールを運営する、黒澤駿さん。「住む」という概念をときに狭く、ときに広く捉えながら、生き方を学んだ本を紹介。
*30代の先輩からU30の皆さんへ。今回は先輩たちの選書を通して、U30の皆さんに、自分たちにもこれからやってくる30代をより豊かに、気持ちいい生き方をしてもらえたらと思い、11名の方に本を選んでいただいています。

100食限定の国産牛ステーキ丼専門店『佰食屋』のオーナーが、「売り上げを減らすこと」によってやりがいのある働き方が可能になったことを示した本。売り上げよりも、スタッフや仲間との関係づくりの大切さを学びました。
ゆっくり、いそげ─植物が育つように、いのちの形をした経済・社会をつくる/影山知明著、クルミド出版刊
東京都西国分寺市のカフェ『クルミドコーヒー』の店主・影山知明さんが書かれた『ゆっくり、いそげ』の続編です。地域とともにあるカフェが第一に考えるべきは、業績向上ではないことに改めて気づかされました。
学生時代からカフェ文化に興味があったので、休学して世界のカフェを100か所以上巡り、帰国後、『cafe sowers』という学生と地域の人が交流できるカフェを山梨県都留市に創業しました。2017年、4年生で24歳のときです。カフェを丸ごと貸し出す「一日店長」を企画すると、製麺所に勤めておられた方が店長になり、自ら打った手打ちうどんを学生と一緒に調理して提供され、その後、市内にうどん店を開業されるなど、スタートアップを目指す場としても活用されました。
『cafe sowers』を始めたこともチャレンジだったのですが、続けていくことはもっとチャレンジでした。そのときに読んだのが、『続・ゆっくり、いそげ』です。僕が理想とするカフェは、地域の人々が集い、おしゃべりや、勉強や、仕事をしながらコーヒーを飲み、食事をしている空間です。地域に解け込み、人々の暮らしが垣間見え、まるで「住んでいる」かのように存在できるカフェ。『cafe sowers』もそんなカフェを目指しましたが、持続させるには経営目線が必要に。ところが、著者の影山さんは、「事業計画をつくるのをやめた」と書かれています。店舗を経営するうえで事業計画を立てることは最重要事項です。ただ、経営の目線で計画を立てると、頭の中の9割以上が「しなければならないこと」で埋め尽くされ、それでは地域に求められるカフェの運営は難しいと、事業計画をやめたそうです。その発想の転換に驚かされました。
『売上を、減らそう。』では、地域のコミュニティについて考える前に、カフェ内のコミュニケーションを育むことが重要だと教えられました。「従業員の生活をより輝かしいものにすることで、結果的に私もやりたいことができるようになりました」ということを著者の中村さんが書かれているように、カフェのスタッフや仲間とのつながりを強くすることが、売り上げを向上するよりも大事だという気づきを与えられました。
当然ですが、地域に住むにはお金が必要です。そのためにも僕は、地域の空き家を活用したシェアハウスの運営や、ウェブを使った短期移住型キャリアスクールの運営に従事しています。仕事で出会った住人や受講生も都留市や山梨県に住んだり、関係人口になったりしています。売り上げをアップすることよりも、彼らとの交流の時間や、地域に住む環が広がることを大切にしながら仕事と向き合い、大好きな都留市に住んでいることに喜びを感じています。
思考の整理学
外山滋比古著、筑摩書房刊

旅を栖とす
高橋久美子著、KADOKAWA刊

100万分の1回のねこ
江國香織ほか著、講談社刊


photographs by Yuichi Maruya text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。