森林の川上から川下までをつなぎ直すさまざまな活動を行う、森林ディレクターの奥田悠史さん。「森づくりをまちづくりの視点から、まちづくりを自然資源の視点から考える」と話します。森林のおもしろさや現状、森林に関わる姿勢を学ぶことができる5冊を選んでもらいました。
そうしたなかで僕が大切にしている本が、『21世紀の楕円幻想論』です。貨幣経済に重きを置いた世の中を「正円」にたとえ、それに対して目指すべきは貨幣経済と贈与経済という2つの中心点を持った「楕円」で、それらが両立している社会が重要だと説いています。貨幣経済の社会では、いろいろなものが排除されやすく、僕たちは貨幣経済のなかでお金を失ったら生きていけませんが、物々交換を含めた贈与経済のなかでは生きられるのです。両方を行ったり来たりし、その間にあるちょうどいい未来を見つめたいです。
森林に話を戻すと、過去に植えられた木について僕らに責任があるのかどうかは、分かりません。でも、誰かがそれを引き受けていかないと、”収奪社会“からは離脱できないのです。SNSなどではときに自己責任論が叫ばれますが、この社会で、誰かが責任をとれることなんてあるのでしょうか。著者は「誰の責任か分からないことを引き受けて生きている人がいる」という考え方が重要だと説きます。今僕らには頑張れるチャンスがあるということ。もし頑張れるなら、信念に基づいて頑張ったほうがいいと考えています。
森のおもしろさや豊かさを知ることができる読みやすい本が『樹木たちの知られざる生活』です。ドイツの森で森林管理官として働いていた著者が、観察に紐づいて森のおもしろさを綴っています。例えば「人間の知らないところで樹木たちは会話をしている」など、視点がおもしろいのです。いろいろな事実を通じて、森や木々が意志をもって生きていることがよく分かります。しかも、観察日記のようになっていて生き生きと語られ、そこに喜びがあるのがいいなと感じました。樹木は環境保全の道具ではなく、共に地球で生きていく仲間なのだということが文章から伝わってくるのです。
森林にとっての幸せな状態に向かう道はたくさんあります。森林の課題ではなく、それを解決した先の未来を愛していれば、柔軟に考えることができます。今回紹介する5冊が、そのヒントになればうれしいです。
岡本健太郎著、講談社刊
アナ・チン著、赤嶺 淳訳、みすず書房刊
宮崎 学著、小原真史著、亜紀書房刊
猟師生活が描かれた漫画で、何度も読み直しています。生きものを獲り、命を頂く生活。決して命を軽んじているのではなく、そこには喜びがあり人間味にあふれています。自然界とのバランスを考えさせられます。
樹木たちの知られざる生活─森林管理官が聴いた森の声/ペーター・ヴォールレーベン著、長谷川 圭訳、早川書房刊
ドイツで長年森林管理をしてきた著者が、豊かな経験と科学的事実を基に、樹木には驚くべき能力と社会性があることを紹介しています。37篇のエッセイからなる、樹木への愛に満ちた世界的ベストセラー。