「未来を変えるプロジェクト」を続けてきたEARTH MALLでは、日常の中でその人らしく、小さくても地道に続けていけるサステナビリティに繋がるアクションを「サス活」と定義しました。会話の中から、誰もが始められる「サス活」アクションのヒントを探していきます。
東京・稲城市の多摩川沿いの古民家で「いな暮らし」を営む鈴木萌さん。カフェの工房で和の素材を中心とした子供もおとなも一緒に食べられるものを作りながら、ノートやインスタグラムに繊細に、丁寧に日々の料理や感情の変化を綴ることを得意とし、いな暮らしファンのお客さんや、ラジオで声を届ける広いオーディエンスとのコミュニケーションを楽しみ、個人で発信も続けてきた萌さんに、自分らしくお店を営むコツやご自身の「サス活」についてお話を伺った。(聞き手・取材:EARTH MALL編集部 小田部巧/腰塚安菜)
EM 腰塚:カフェ業務を始める前から手製の料理やお菓子でもてなすことが得意で、フェアトレード バッグブランドでの勤務経験、出版社「エムエム・ブックス」にインターンするなど、様々なバックグラウンドを持つ彼女のことを学生時代から尊敬していました。
SNSではいつも繋がっていました が、お互いのワーク環境に大きな違いがあったので「いな暮らし」の情報にキャッチアップできたのは、ごく最近です。
EM 小田部:「いな暮らし」という店名も含めてどんなお店か聞きたいです。
萌さん:「食べよう・話そう・つくろう」という3つのコンセプトで、母が料理を担当、私がカフェを担当(スイーツやドリンクなど)という形で分担して切り盛りしているお店です。
私は「カフェ」というよりも場所を提供しているという感じかなと思っています。震災後、稲城にお店を構える前は母が家のガレージにパラソルをして始めるところから始まったんです。
EM 腰塚:「稲城のもうひとつのおうち」というコンセプトの方は知っていましたが、お客さんにとってはカフェの機能より、立ち話が出来るコミュニティという要素も大事なんですね。
最近、お店を営む中で、何か変化を感じましたか?
萌さん:例えば、自粛期間中に野菜とか発酵食品の需要が増えて、よく売れたのは、いい流れだなと思いました。
EM 小田部:自粛期間で、免疫力を高めるという発想になって、体が自然に野菜とか発酵食を求めるようになったのかな。
EM 腰塚:ついでに、料理もしたくなるとか、確かにありましたね。
萌さん:もともと「いな暮らし」の料理に使っていた八王子のFIOさんの野菜は、1年半くらい前か ら野菜の店頭販売を始めて毎週金曜日、受け渡しを行っています。私自身も畑を見に行ったので「この野菜をお客さんに届けたい」という想いも生まれ、苦労して野菜を作っている農家さんに私たちからお客さんの感想を直接お返しできることに喜びも感じています。
畑に行くと季節を感じるし、料理 のバリエーションも広がるし。スーパーで売っているのと全然違うし、料理していて気持ちがいい野菜っていうのかな。
EM 腰塚:お店を始める前の大学生の頃から「手作りすること」「顔の見える関係を支える」ことを軸としてきたと思います。
お店や生産者さんを守りたいという気持ちはいつどこで生まれますか?
萌さん:そうですね。例えばこの近所の商店街。好きなお店を守ることって、自分には身近で当たり前のことだけど、多くの人がスーパーで買っているから、自分は商店街での買い物も大事にできたらと思っています。
お店ではずっと顔が見える人からの食材を基本的に扱ってきたし、全部は賄えなくても、料理に向き合うときの気持ち、楽しさ、やる気が違います。
「続けるためのお休み」で自分を整え、お店を整える1か月に。
EM 腰塚:少し急だったのですが、実は「いな暮らし」のブログに綴られた「続けるためのお休み」というタイトルにはっとして、7月中に取材を組ませてもらいました。
萌さん:世間的な「お休み状態」で環境が変わったので。今後お店をどう続けていくかを考えるよい機会になりました。これから一番暑さがピークで体もきつい時期なので、体も無理せず整える1か月にしていこうかと思います。
EM 腰塚:お休みする1か月の間に、また自分にとって大きな転換が生まれるかもしれないですね。
萌さん:最近ますます、お店をやっている自分の心と体が一番大事で、整えて、いい状態でいられるペースで仕事をしていくことが、今一番意識していること。お店を不定休にしているのもそうです。
今までは「体が重い」という日でも体調をおして無理してお店を開けたりもしていたんですが、その日の朝連絡を取り合って、母も含めて、自分たちが一番いいパフォーマンスが出来て気持ちよくご飯 を作れる状態であるかという点検をしてから、お店をやることに。「体を無理してでもお店を開ける必要があるのか」という考えに至りました。
明日の私の気持ちや体調は読めないので「流れ」を大事にしています。
EM 小田部:予定を当面決めないとか、流れを大事にするようになったのはいつからなのでしょう?
萌さん: 2019年秋の豪雨で被害が出た時も多摩川沿いにいたので、その頃から(お店のことも)「いざという時どうしようか」「いつどうなるかわからないから、先のことは決めない」という意識がありました。 お客さんにとっては「いつでもふらりと来れる良さ」と引き換えになりましたが、ランチを予約制に変えたのも、やってみてよかったと思っています。
今まで台所で焦ってしまっていたのが、自分たち も余裕をもってゲストをお迎えできるし、ランチのロスもないし、予約してもらうことで、その分を見越して仕込み仕事ができるということも。
EM 小田部:先ほどの「整える」ことを重視する。お話を聞いていると、いつか自分の心の声を聴く 力が強くなっていったんじゃないかという気がしました。そんな意識はいつ芽生えたのでしょうか?
萌さん:学生時代、周囲が皆、看護師を志す環境に置かれていて、自分は助産師という仕事にあこがれていましたが、学校の授業の9割くらいが西洋医学だったことに違和感や苦手感を覚えてしまい。
一方で月の満ち欠けと女性のバイオリズムなども独学していたのですが、カリキュラムの方針と合わなかったり、生理が止まってしまったり、正直きつかったんです。
そうした時、地域の方々と話したり、シェアハウスなど学校外とのつながりを見出したことは、自分にとって支えとなりました。淡々と資格をとるために勉強することができればよかったとも思うのですが、当時を振り返ると「もう (自分の心や体に)嘘つけなくなっちゃったな」と思います。
EM 小田部:葛藤や困難もあっての今のスタイルなんですね。
自分をこまめに「点検」できる人ってなかなかいないと思って。どんなところで働く人にも重要ですね。
お客さんに無理なく続けてもらう、省資源テイクアウトの工夫。
EM 腰塚:インスタグラムにテイクアウトボックスの様子がちらほらあって、すごく素敵なんです。
世間はちょうどテイクアウトが活況でしたが、昔からの友人が新しく始めたんだと知り、嬉しくなりました。
萌さん:最近のランチ・お弁当のテイクアウト販売は、混雑緩和も考慮して、当日ご予約制を基本としていました。
朝8:30以降に電話かショートメール、instagramのDMからでもOKという形でご依頼に応える形です。
萌さん:お弁当箱も、ゴミになるもの、本当に多いですよね。私たちも、うち(いな暮らし)で買うものはなるべく紙箱にしているけど、そもそも「すぐゴミになるのが分かっているものを買うのって どうなんだろう」って。
だったら「お家にあるもの、何でもいいから持ってきて」と呼びかけるよう になって、半数以上のお客さんが持ってきてくれるようになりました。
EM 小田部:お持ち帰りとか、デリバリーが増えたせいで、余計で容器のゴミが増えたんじゃないかと僕も思います。
萌さんの「サス活」とは?
お客さん、家族、自分を大事にするために、こころとからだの声を聴いて動く。萌さんのサス活
いな暮らしのブログに発見した「続けるためのお休み」という言葉から取材は始まり、サステナブルにお店の営むためのヒントを探した。そこにはこのように書かれている。
「先の見えない毎日ですが、この夏は1ヶ月のお休みをとることで、今後の営業形態を考えたり、お店を整えたり、自分たちのからだを休め、休むことによってできることに時間を使っていきます。」 「わたしたちがまず、当日の朝の体調チェックをしてから、万全の状態でみなさんをお迎えできると判断できた日にお店を開けることにしました。」
お店には、お店でしか生まれないコミュニケーションがあると信じている。あるものを提供する人といただく人の会話はその日その日で異なり、また足を運ぶことに繋がる重要な要素と思えるからだ。
萌さんは、お店を続けるために、自分もしっかり休むことでエネルギーを培いながら、生まれた余白でお店周りの省資源やテイクアウト対応などで環境配慮にも積極的にチャレンジしている。
感覚と直感を大事に、流れに身を任せるような、現在の萌さんの物腰や発信のスタイルからは感じさせないが、過去には環境に合わせる上での苦労や葛藤も経験し、その頃の経験が裏打ちされて「サス活」に繋がっていることを知った。
これまで萌さんが経た様々な想いや過去の仕事にも想いを馳せると、彼女のコアに変わらないものの存在(サステナビリティ)を発見した。
今はなかなか気軽にお店へ足を運ぶことが叶わなくても「いな暮らし」で購入し “連れて帰った” 料理道具を愛でながら、 家での日々の料理で大事に使っている。