100%土に還る服づくりで、世界を変える。「tennen」が目指す、究極の循環型社会とは

100%土に還る服づくりで、世界を変える。「tennen」が目指す、究極の循環型社会とは

柔らかく温かみのある素材に、無駄のないシンプルなデザイン。時代や年齢、性別を超えて、いつまでも着続けられる衣服が揃う《tennen》の服は、すべて自然分解できる天然素材で作られている。しかしそれは決して容易なことではない。服づくりから世界を変える、《tennen》の挑戦。何気ない普段の服選びから、世界は変えられるかも。

世界で第2位の汚染産業といわれる、ファッション業界。


 普段の生活の中で、何気なく買い替えている洋服。季節や気分にあわせて服を買い替えることは、私たちの生活の中ではごく当たり前のことになっている。服がほしいと思えばいつでも購入できる便利さの一方で、実はファッション業界は世界第2位の汚染産業と言われているのをご存じだろうか。たとえば、洋服の製造過程で大量の廃水汚染が発生していることや、リサイクル率が低く、売れ残った商品が大量に焼却処分されていること、さらに原料となる綿花栽培では大量の農薬が使われていることなど、問題は多岐に渡る。


煙突


 服を選ぶ時、洋服のデザインやサイズは気にしても、それらが“何の素材を使い、どのように作られているか”まで考えて服を選ぶ人はまだまだ少数派だろう。ファッション業界全体としても、“エシカル”や“サスティナブル”などのテーマに取り組もうとする機運は高まっているものの、依然として環境への負荷は大きいままだ。消費者である私たちも、洋服に対する価値観を見直すべき時がきているのかもしれない。


アパレルの“無駄”をなくしたい――《tennen》の誕生。


 そんなファッション業界の中で、ゴミを出さない循環する服づくりを目指し、2018年から天然繊維100%の服を作り続けているのが《tennen》だ。生地はもちろん、ボタンや品質表示のタグまで、すべて「土に還ること」にこだわって作られる《tennen》の服は、資源の循環とともに、関わるすべての人の幸せを循環させたいというコンセプトを持つ。


tennen_服


 この《tennen》は、スウェーデンのアウトドアブランド《フェールラーベン》の販売代理などを手掛けるワイエスインターナショナルが、自社でスタートさせた日本発のエシカルブランド。その始まりは、同社の代表取締役・上田雄一朗さんが長年目の当たりにしてきたアパレル業界のあらゆる“無駄”をなくしたい、という思いからだった。


上田さん「《フェールラーべン》は、60年前から“循環型”や“サステナビリティ”に取り組んでいるブランドです。5年前から弊社で取り扱わせてもらうようになって、教えられる部分も多くありましたし、私自身もアパレルやアウトドア製品などのものづくりに関わる中で、数多くの“無駄”を見てきました。たとえば、毎年作ったものをクリアランス(最終処分)して、在庫が残ったら焼却するという流れとか。アパレルはリサイクル率も低くて、そういう大量生産、大量消費の流れがずっと続くかというと、決して続かないだろうなと。それで、循環型社会を目指した新しいブランドを立ち上げられないかと考え始めました」


 そんなブランドの構想を実現するため協力を依頼したのが、現在《tennen》のディレクションとデザインを担う小栗大士さんだった。当時から小栗さんが展開するアウトドアウェアブランド《rulezpeeps》での経験や、住まいがある千葉県鴨川市での暮らしを通して、小栗さん自身も循環型のものづくりの必要性を感じていた。


 しかし同時に、洋服に対する消費者の価値観の変化とともに低価格化が進んでいたアパレル業界の中で、新たなブランドを立ち上げることに不安や迷いもあったという。そうした厳しい状況の中でも、10年、20年と長く続いていくブランドを作るため、これまでにない新しい服づくりのかたちを目指したと振り返る。


小栗さん「これから新たなブランドを立ち上げるっていうのは、相当の覚悟と新しいアプローチが絶対的に必要だと感じていました。僕自身、鴨川で自然とともに暮らす魅力をリアルに経験してきた中で、“循環型”の要素がこれからのアパレルには絶対必要だという実感もあったんです。それで、上田社長と話す中で、生産者や自然環境も含めてすべてがハッピーでなくちゃいけないっていう、そういう意味での循環を目指そうという話になりました。今でもこのコンセプトは全く変わっていません」


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 デザインや品質にこだわることで得られるユーザーの幸せはもちろん、その生産背景までを含め、関わるすべての人やものの幸せを循環させていく。環境にやさしい天然素材100%の服づくりとともに、《tennen》はそんな社会の実現を目指している。


洋服のリサイクル率は、全体のわずか約20%ほど。


 しかし、《tennen》が目指すそうした循環型の服づくりは、もちろん簡単なことではない。というのも、私たちが着ている服には、ポリエステルやレーヨンなどの化学繊維が使われていることがほとんどだ。服の生地自体は綿100%だとしても、縫い糸や品質表示のタグが化学繊維で作られていたり、ボタンやファスナーなどはプラスチックや金属が使われている。


 このように洋服は、さまざまな素材を組み合わせて作られていることでリサイクルしにくく、そのリサイクル率は全体の約20%ほどにしか達していないという。着られなくなった衣服の多くは、埋め立てや焼却処分されているのだ。捨てられてゴミになった後も、自然に還るまでには長い年月がかかり、自然環境へ有害な影響を与えるものも多い。衣料品の大量廃棄が問題になっているのも、こうした背景があるためだ。


服_ごみ



「100%土に還る服」はどうやって実現されたのか?

リサイクルしやすく、100%土に還る服を目指して。


 だからこそ《tennen》は、リサイクルしやすい天然繊維100%の服づくりにこだわる。しかも、すべて天然素材で作られていれば、たとえゴミになったとしても土に還ることができる。あくまで自然のサイクルの中で、無理のない持続可能な服づくりを理想に掲げているのだ。


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 とはいえ、ただ天然繊維100%の服を作っても、ユーザーに選ばれなければ意味がない。化学繊維のほうが機能的にも優れているなかで、天然繊維だけで衣服としての機能性を高めなければならない《tennen》の服づくりは、相当な努力が必要とされている。


小栗さん「正直な話、結構大変で。たとえば、今の時代、ゴムって必ず合成繊維が入っているんです。生ゴムもあるけど、すぐ切れたりして使えるものにならない。だから人にとっては合成ゴムを使ったほうがラクなんです。でもそこを頑張って使わないで、どうするかを考える。今は合成繊維のほうが機能的なんですよ、絶対。ただ、やっぱり天然繊維は土に還るし、人はもともと天然繊維を着ていたので、そういう自然のものを纏うことが、どこかで心の拠り所になっている部分もあると思っていて。天然繊維の良さと機能性を求める現代の需要をすり合わせる難しさは、常日頃苦しみながら考えているところです」


Yurutto Pants
「Yurutto Pants」と名付けられたパンツは、ゴムを使わず紐でウエストを調節できる。素材はオーガニックコットン100%。

 環境にやさしい天然繊維を使うからといって、洋服としての着心地や機能性が落ちていいはずはない。そんな妥協のないものづくりによって、《tennen》の服は天然繊維らしい独特な風合いと快適な着心地を兼ね備えている。商品によって使用する素材を厳選することはもちろん、時には特性の異なる天然繊維を組み合わせて新しい素材を開発したり、服自体の構造を工夫してデザインすることで、天然繊維100%の服を実現している。


 現在では、Tシャツやトレーナー、ジャケット、パンツなど、豊富なラインナップが揃う。さらに、これらの商品の販売時には、原料となるコットンを身近に感じてもらうための工夫をしていると、企画・販売を担当する加藤華子さんが教えてくれた。


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加藤さん「実は、商品の下げ札にコットンの種を入れてるんです。普通にプランターでも育てられるので、ぜひみなさんに実際に育ててみてほしくて。そうすることで、綿花を育てる大変さや、服の原料であるコットンについて理解を深めてもらう。そしてゆくゆくは、みなさんが摘んだコットンを商品にも取り入れていきたいと考えています」


 日本ではあまり馴染みのない綿花の栽培。しかし、普段着ている洋服の多くは、その綿花を原料とするコットンから作られる。野菜と同じように綿花を育ててみることで、これまで当たり前に着ていた洋服が、いつもと少し違って見えるかもしれない。たとえ実際に植えられなくとも、その種を手にとって触れること自体、今着ているものの価値を見直す機会になるはず。《tennen》の服を買うことで、普段は見えない洋服の本質に触れる、ささやかな体験が用意されている。


古着から取り出した天然素材で服を作る、新プロジェクト。


 そうした天然素材100%の服づくりとあわせて、新たなリサイクル技術の開発プロジェクトもスタートしている。具体的には、古着から天然繊維を取り出し、その繊維で服を作るというものだ。


BORO Tee


 たとえば、コットンとポリエステルで作られたTシャツのうち、天然繊維であるコットンを取り出し洋服を作る。これまでは、ポリエステルだけを取り出してリサイクルする方法はあったものの、コットンだけを取り出す技術はなかった。《tennen》がこのような新しいリサイクル技術の開発に取り組む背景には、洋服のリサイクル率が低いことに加えて、コットンなどの天然繊維の栽培に膨大なエネルギーが消費されている現状がある。


小栗さん「天然繊維って、栽培するのにものすごくエネルギーが使われてるんですよ。水をすごい使って、農薬をすごい使って、人力をすごい使っている。育つまでに労力も時間もめちゃめちゃかかっているのに、それを無駄にしているのは今のアパレル産業なんです。そんなの、もったいないじゃないかと。だから、捨てられた中に使えるものがあったら使ったほうが良いよねっていう考え方です。もっと言えば、天然繊維100%でリサイクルが循環していけば、そういう大きなエネルギーを使う必要がない。我々としては、新しい資源として古着のリサイクルに取り組んでいるところなんです」


 今ある資源(≒古着)から天然繊維を生み出すことができれば、その栽培に費やされていたエネルギーも大幅に抑えることができる。そしてこのリサイクルがうまく回っていけば、土に還る天然素材の洋服自体も、もっと世の中に増えていくはず。アパレル業界が抱えるさまざまな課題にアプローチしながら、本当の意味での100%循環型のものづくり実現に向け、《tennen》は着実に歩みを進めている。


綿花


 しかし、現状ではまだまだ課題も多い、と小栗さんは話す。


小栗さん「今回、このプロジェクトで『BORO Tee』というTシャツを作ったんですが、これはチャレンジしたものがひとまず形になったもので、まだまだ改善しなきゃいけない部分がたくさんある。その課題というのは、単純に言ってしまうと、化学繊維をすべて抜くことができないかということ。リサイクルの工程の中で、できるだけポリエステルなどの化学繊維を省くのですが、出来上がったものの約15%近くは天然繊維以外のものが混じってしまう。今のやり方ではどうしても限界があって、それを現代の技術でどうにかできないかと考えているところです」


BORO Tee
古着をリサイクルして作られた「BORO Tee」。ヴィンテージ感も漂う、ベーシックなデザインは、どんなファッションにも合わせやすい。

 完成形ではないからこそ、まだまだ伸びしろがある。《tennen》が目指す循環型社会の実現へ向けて、今後も新たなアプローチの方法や技術が生み出されていくはずだ。そして小栗さんは続けて「天然繊維でどれだけ新しく面白いことができるのかというところにぜひ注目してほしい」と語ってくれた。


《tennen》の服づくりから、世界を変える。


 そんな《tennen》の挑戦はまだ始まったばかり。代表の上田さんは、これまで前例のないことに挑戦するリスクはあるとしながらも、ここ数年気候変動や自然環境の変化を実感する中で、《tennen》の取り組みは確実に必要なことだと感じているという。


上田さん「これまで大手メーカーさんも取り組んでこなかったようなことにチャレンジするというのは、ビジネス的にも非常に厳しい環境ではあると思います。それでも、業者の方だったり、工場の職人さんだったり、いろんなところで話をしていくと、やっぱりこれは絶対必要なことだと確信するんです。最近は災害も多いですし、やっぱり自然環境に対して過剰な負荷が出ているというのはあると思っていて。そう考えたときに、我々の役割としては、その原因となる何かをひとつでも改善できるような、参考になる事例ができたらと思っています」


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 そして、業界全体として厳しい状況にあると言われるアパレル業界においても、《tennen》の新たな取り組みが、再び業界を盛り上げるきっかけになればいい、と小栗さんは話す。


小栗さん「我々は、みんながハッピーになるっていうことを目指しているので。この《tennen》の取り組みが、アパレル業界の中でもちょっとした起爆剤になればいいなと思っています。そして、一緒になってやっていける仲間が増えていくことによって、新しいアパレルのあり方が生まれて、またお客さんに期待感やワクワク感を届けられたら、それは最高ですよね」


 《tennen》ほど地球環境へ最大限配慮しながら服づくりに挑むブランドは、今、国内では他にないかもしれない。しかし、遅かれ早かれ、誰もがこうした環境問題について向き合わなければならないときが必ず来るはず。《tennen》の描く未来は、一歩も二歩も先を行っている。


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 服を選ぶということは、ライフスタイルを選ぶことに近いと思う。《tennen》の服は、まさに「自然を纏う服」。自然の恵みだけで作られたその服は、直接肌に触れるときもどこか安心する気持ちよさがあり、心や体が軽くなるような気さえする。そんなふうに、心地よい服とは、デザインや機能性だけではないはず。《tennen》の服を纏うということは、自然とともに暮らす生き方を選ぶことでもあるのだ。


<tennenと繋がる>


 

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