島根県の魅力を二人三脚でゆるく発信するお絵かきユニット、ヘイソン・ニャーさん。おふたりは作品を通し、「島根のありのままの日常を共感とともに届けたい」と考えている。そのための視点、対象との距離の置き方、伝える際の自分自身のあり方などを吸収した本を選んだ。
ヘイソン・ニャーさんが選んだ、地域を編集する本5冊
私たちのイラストやマンガは、多くが「島根県のよさを伝える」内容です。二人とも島根とは離れた場所の出身ですが、大学進学でやってきました。外からの目線を活かしながら、島根に関わる人にもそうではない人にも共感してもらえる作品にしようと心がけています。今回は「共感できる作品づくり」のお手本にしている本を選びました。
『孤独のグルメ』は、「主人公が知らない町でふらっと大衆食堂に入って何か食べる」という漫画です。店には当然当たりはずれがあって、そういうこともストレートに描いているのだけど、いやな感じはしません。店や町の住人たちへの愛情を持ちつつも、常に距離をおいて分析しているんです。私たちも発信するとき、住んでいるからこその正直な話も盛り込むのですが、そのさじ加減の参考にしています。
『愛しのローカルごはん旅』は、ごはんそのものというよりも、ごはんを食べるときの小さな出来事を積み重ねている本です。たとえば「串カツ屋に入ってお店の人におすすめを聞いたけれど、結局ほかのものを注文した」とか。そういう小さなエピソードに親近感が湧いて、等身大の友達の話みたいに読める。私たちの想定読者層には「島根に興味があったわけではなく、結婚や転勤で来ざるをえなかった」人もいます。そんな人たちにも、身近な友達の島根語りのように作品を届けたいと思うとき、この漫画を思い出します。
『一日江戸人』は、江戸で暮らすのに役立つことを絵と文でこと細かに描いた本。「オシャレな女子は唇の形がきれいに見えるように、お酒を飲むときは平たい杯を使う」とか、現代から見れば役に立たないんだけど、蓄積されているとおもしろいし親しみが湧きます。まるで雑談をたくさん聞いている気分。きっと、今から江戸に行っても楽しく暮らせるでしょう。
これは地方暮らしや移住についても同じで、役に立つ情報を発信する人は大勢いるだろうけど、役には立たず、関係性があって初めて生きてくるような雑談を、ちゃんとまとめてみるとおもしろい。島根にあまり関わってこなかった人にとっては、江戸も島根も同じだと思うんです。今、島根にいる人がもし島根を離れても、そんな雑談のおもしろさをなんとなく覚えていて、「島根っていいところだよ」とまわりに言ってくれるような場所にできたら、きっとまた何か新しくつながっていくと思うんです。