SDGsに基づいた働き方の新基準、「ディーセント・ワーク」とは?

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ILO(国際労働機関)が掲げ、国連が採択したSDGsにも大きく関わる「ディーセント・ワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」のこと。この働き方の新基準を広める活動を行うのが『ディーセントワーク・ラボ』だ。代表理事の中尾文香さんにディーセント・ワークの内容や実践方法を聞いた。


「ディーセント・ワーク」は人間らしい新しい働き方。


「ディーセント・ワーク」とは、端的にいえば「働きがいのある人間らしい仕事」のこと。「生活と働くことをよりよいものにしたい」という人々の願いを受けて、ILOが21世紀の主目標として掲げた。2015年に国連が採択し、2030年までに達成を目指す持続可能な開発目標「SDGs」の中でも基軸のひとつとされたことで、社会の中にも概念が浸透し始めた。


 不自由のない生活を営めるほどの賃金を得られることが、仕事をするにあたっての大前提だ。しかしそれ以外にも働くことで人から感謝されたり、人の役に立っていると実感できたりする、「働くこと自体の喜び」も、仕事には必要である。『ディーセントワーク・ラボ』は、どんな人もそんな働き方を実現できる未来を目指し、活動する団体だ。具体的な活動内容は、障害者がその特性を活かして働ける事業を創出する、企業が政府の「障害者法定雇用率」を満たし、かつそれぞれの障害者の長所を経営方針にマッチさせられる形での雇用を提案するコンサルを行う、それらの現場から得た知見を元に、オブザーバーとして政治家などに意見を伝えたりする、オンライン環境でストレスなく働くための方法をセミナーなどで伝える、などだ。


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SDGsの8項目「働きがいも経済成長も」の「働きがい」の部分がディーセント・ワークのこと。

障害者雇用の問題から、働き方について考え始める。


 代表理事を務める中尾文香さんは、大学、大学院で福祉について研究した後、福祉関係のコンサルタントを行う会社に就職。障害のある方や高齢者にも向けた企業の商品が、彼らにとって本当に使いやすいか調査・研究して、フィードバックする仕事に携わった。


 しかし仕事を続けるうちに、そういった人々に本当に必要なのはハードではなくソフト面からの支援ではないかと考えるようになる。中尾さんは、学生時代に障害者や高齢者の支援活動に直接参加した経験から、特に障害者が本当に生き方のクオリティを上げるには、低賃金で、その場にいること自体が目的化している働き方を変えていくことが大事なのではと結論を出した。


 その問題意識を元に、多くのデザイナーや有名パティシエにコンペ参加やレシピ開発の協力を訴え、全国の就労継続支援事業所で、障害者ならではのていねいな作業でのものづくり、お菓子づくりを行うプロジェクトをスタート。消費者にとって高い付加価値を持つ商品を生み出すことに成功し、「福祉分野の商品だから買う」のではなく、「品質のいいもの、おいしいものだから買う」という購買層の開拓に成功した。パティシエ直伝のお菓子づくりを行う『焼き菓子プロジェクト』は2011年、雑貨などを制作する『equalto』は、2014年にグッドデザイン賞を受賞している。


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『equalto』の雑貨。実際に就労継続支援事業所で何ができるのかを理解してもらったうえでデザインをしてもらった。

「実際に店頭に並んでいるのを見たり、商品の感想をもらったりして、自分たちが『品質に魅力を感じて買ってもらえるもの』をつくっているのだとわかると、みんな作業に対して一生懸命になったり、休みがちだった人が毎日作業に来るようになったりしました。そこで『働きがい』の大切さを実感したのですが、この『働きがい』こそが、当時はまだそこまで概念が浸透していなかった『ディーセント・ワーク』だと、ある方の指摘でわかり、そこから障害者の雇用を焦点にした『ディーセントワーク・ラボ』の立ち上げに至りました」と中尾さんは語る。名前に「ラボ」とつけたのは、さまざまな試みを積極的に打ち出していこうという意志からだ。


「働きがい」は、万人に必要なことだが、あえて障害者にフォーカスするのはなぜか。「私たちは『障害』とは単に何かができないことではなく、得意、不得意の”凸凹“が大きいことなのだと捉えています。凸凹の大きさに違いはあるかもしれませんが、あるということ自体は障害があってもなくても同じ。また、みんな凸凹の大きさや形はみんな違いますから、それは『多様性』ということもできます」。


障害者雇用にはディーセント・ワークの鍵が。


 凸凹を埋め合わせるアイディアを出したりチームプレーをすることで、自分の短所に落ち込むのではなく長所に自信を持ち、やりがいを感じることができれば、それが結果的にディーセント・ワークにつながると中尾さんは考える。


「障害者の働き方にまつわる問題には、ディーセント・ワークの実践に必要なことが詰まっているんです。こうやって得た知見は、障害のあるなしに関係なくどんな立場の方にも応用することができるでしょう」


 実際、障害者雇用を積極的に行ったことで、「みんなが優しくなった」「コミュニケーションが増えた」という声が聞こえるようになった会社は多いという。


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インターンとしての研修後、新卒で入社した小林未季さん(左)は大学の後輩。すでに任されているプロジェクトも。

 中尾さんはさまざまな会社のコンサルタントを行う際、課題だと感じていることがある。


「IT系など障害者雇用が比較的難しい業種もありますが、そんな中でもどうやって得意分野を活かせる働き場所をつくっていけるかということです。しかも、それが経営方針や経営理念とズレていては、障害者は『何のために働いているのか』『本当に役に立っているのか』ということになってしまう。障害のある方にその会社に必要なサイクルに自然に入ってもらうためにはどうすればいいのか、定期的にミーティングをする会社もあります」


 最近はアイディアとして、社内でよくコーヒーが飲まれるからコーヒー農園をつくったり、関連企業に配る会社のノベルティグッズをつくってはどうかなどの案が出たそうだ。


 そのほかにも『ディーセントワーク・ラボ』では、いくつものプロジェクトを同時進行している。たとえば、埼玉県飯能市にある『ムーミンバレーパーク』付近の売店『ONE MORE BITE』は『ディーセントワーク・ラボ』が運営し、全国の就労継続支援事業所でつくった焼き菓子やベーグルなどを販売している。ほかにもZOOMを利用し、発達障害などの障害のある人と直接対話をして考え方を知るイベントも先日開催したばかりだ。


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全国の就労継続支援事業所でつくられたお菓子。埼玉県飯能市にある『ムーミンバレーパーク』付近の売店『ONE MORE BITE』で発売されている。

「役割や個性を認めながら、『背負いすぎず、否定もせず、一緒にいる』共存の仕方」、つまり障害者とそうではない人がごく自然に同じ場所にいられるプロジェクトを、今後も計画していきたいと思っています」


 現在はコロナ禍で一時中断しているが、来場者参加型イベントも企画中。挑戦はこれからも続く。

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