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多様性

ヘアドネーションをきっかけに、ウィッグの必要性について考えてみた

鍋田ゆかり

鍋田ゆかり

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伸ばしっぱなしだった髪の毛を急に切りたくなって、ヘアドネーションをすることにした時、「髪の毛が無かったら、それは隠さなければいけないことなのか」という疑問が湧いてきた。とくに「髪の毛があって普通」と思われがちな女性の場合、ウィッグを付けるか付けないかの選択は、その生き方に大きな影響をもたらす(と筆者は思う)。世間を見わたせば、自ら坊主になった女性もいれば、自分の意思とは関係なく病気で坊主になってしまった女性もいる。そしてどちらであっても、いきいきと自分らしく暮らしている女性たちがいる。もし、何らかの理由で髪の毛を失い、悩み悲しんでいる人がいたら、彼女たちの経験と言葉で、その背中を押すことができるのではないかと思い、話を聞いてきた。

目次

「ヘアドネーション」とは

寄付された髪の毛を使って医療用ウィッグをつくり、病気などで髪の毛を失った子どもたちに無償で提供する活動を、「ヘアドネーション」という。国内初のヘアドネーション団体は、2009年に発足されたNPO法人『Japan Hair Donation&Charity(JHD&C:ジャーダック)』。ヘアドネーションをすることにした私は、ヘアドネーション賛同サロンでカットをしてもらい、持ち帰った髪の毛を自分でジャーダックに発送した。
ヘアドネーション

ヘアドネーション

カットされた髪の毛は、40cm以上あった。
2011年にヘアドネーションをしようと賛同サロンを調べたとき、南房総エリアでは見つけられなかった記憶がある。結局都内に出てヘアドネーションを行ったが、今回調べてみたら南房総エリアでの賛同サロンがいくつかあった。それだけヘアドネーションが浸透したのだろう。当時は、賛同サロンでヘアドネーションを行いたい旨を伝えてカットし、髪の毛はサロンが発送してくれたが、現在は賛同サロンでカットした場合も髪の毛を持ち帰り、自分で発送することを推奨しているようだ。
STUDIO ANICCA(スタジオアニッチャ)

STUDIO ANICCA(スタジオアニッチャ)

今回利用した鴨川市にあるプライベートサロン『STUDIO ANICCA(スタジオアニッチャ)』。
https://healingworksanicca.net/

汎発性脱毛症で全身の毛を失って21年。米山美穂さんの場合

あわ里山ごはんるんた

あわ里山ごはんるんた

『あわ里山ごはんるんた』を主催する米山美穂さん。
https://www.awalungta.com/
仲間とともに新月の日に開かれるマーケット『awanova』を開いている。
https://sotokoto-online.jp/local/6189
妊娠8か月のとき、ふつうじゃない量の髪の毛が抜け始めたという米山美穂さん。3か月くらいかけて髪の毛がすべて抜け落ち、最後はまつ毛やまゆ毛も抜けて、全身つるつるになったそうだ。

米山さん「妊娠中だったので、最初はホルモンバランスのせいかと思った。毎日尋常じゃない量の髪の毛が落ちてパニックだったけど、産婦人科で調べても異常がなくて、赤ちゃんも大丈夫だったから安心しました」

髪の毛が抜けたことより、子どもが無事に産まれてくることに集中して、お腹の中に命がある幸せを味わって過ごしたそうだ。「ショックだったけど、出産の喜びの方が勝っていた」と当時を振り返る米山さん。

一年後大学病院で検査した結果、汎発性(はんぱつせい)脱毛症と診断される。原因は分からず、ステロイドを塗ってステロイドを飲み続けるしかなかったが、母乳をあげていたこともあって治療は受けなかった。初めて自分の身体と向き合い出合ったのが、玄米や野菜、海藻などを中心としたマクロビオティックの食事法だった。

米山さん「マクロビの学校に通おうと思ったときにちゅうちょして、オーダーメイドのウィッグをつくりました。でも、夏は暑くて汗をかくし、家に帰ったら一刻も早く取りたくて、途中でやめた気がする」

「あわ里山ごはんるんた」でくつろぐ米山さん

「あわ里山ごはんるんた」でくつろぐ米山さん

日当たりのいい『あわ里山ごはんるんた』でくつろぐ米山さん。
ウィッグを付けて出会った人と会うときは、いつも付けなければいけなくなる。かといって、ウィッグをやめて説明するのも面倒くさい。5年間、ウィッグとともに東京時代を過ごした米山さんだが、南房総へ移住してからウィッグをやめて、布を巻くスタイルに変えた。

米山さん「ウィッグを付けている自分の姿を鏡で見て、自分じゃない自分に違和感や、偽っているといううしろめたさを感じました。付けないでいられたらどんなにいいかって。無かったら無かったで、日ざしが暑いしぶつかると痛いけどね」

髪の毛がないことは人からの目が気になるだけで、髪の毛を洗わなくていいし、美容院代もかからないし、寝ぐせも直さなくていいし、楽だという利点もある。それよりも、まつ毛やまゆ毛が無いことの方が、目にゴミが入るし、まゆ毛を描かないと自分でも怖いと思うし、いつも「まつ毛、まゆ毛は生えてきたらいいな」と思っている。いい点も悪い点もあるが現状について、「文句はない」と米山さんは言い切った。

米山さん「髪の毛が抜けたからこそ、今の自分がある。脱毛という体からのメッセージで初めて、自分の体と向き合うなかで、たくさんの気づきがあった。マクロビオティックや自然農に出合い、体質も価値観も変わり、生まれ変わった感じ。移住して、今の里山での豊かな暮らしがあるのは髪が抜けたおかげで、最大のギフトだと思ってる」

正木衣子さんは、坊主頭にしたことで心の中がシンプルに

心のほぐし屋みどりのいえ

心のほぐし屋みどりのいえ

『心のほぐし屋みどりのいえ』を主催する正木衣子さん。
https://www.instagram.com/midori_no_ie
写真提供:正木衣子
10年くらい坊主頭を続けている正木衣子さんは、長年坊主頭に憧れていたという。ロングヘアにもかかわらず男性に間違われることがあり、坊主にしたら完全に男性に見えるという恐れがあってできなかったのだ。

未就学の子どもをみるバイトをしたとき、正木さんの目に飛び込んできたのは坊主頭でさっそうと歩く女性の姿だった。

「お母さんで坊主がいる!」というのが、衝撃だったと当時を振り返る正木さん。「その頭いいね!」と話しかけたら、「やればいいじゃん」と言われた。男性に間違われることを話すと、「じゃあ、一緒じゃん」と言われて、目からウロコで。翌日、友だちにバリカンで坊主にしてもらい、その日からずっと坊主頭を続けている。

ロングヘアからいきなり坊主頭になった彼女を見て、周囲の反応はどうだったのだろうか。友だちは喜んだり、おもしろがったりしていたようだが、お母さんだけは「少し伸ばしなっせー。帽子ばかぶんなっせー」と隠そうとしていたらしい。それでも正木さんが堂々としていたため、今ではもう坊主頭に慣れたようだ。

日光浴をする正木さん

日光浴をする正木さん

気持ちのいいテラスで日光浴をする正木さん。
正木さんは現在、小学校6年生の子育て中。

正木さん「学校では、変わった人がいる方が周りの人は安心するみたい。あれでもいいんだ、あんなお母さんでもいいんだって、色んな事を気にしている親たちが安心してる。親たちがそうだから、子どもたちも全然何も気にしてない」

子どものころから坊主頭の女性が身近にいると、子どもたちにとって坊主頭の女性は特別な存在ではなく日常の景色になるだろう。当初は男性に間違われることを気にしていた正木さんだが、坊主頭にしたことで心の中がものすごくシンプルになったという。

正木さん「どう見られてもいいやって思うようになって、人目を気にせずに堂々としていられるようになった」

<次のページでは、「二人の子を持つ母・岡本有子さんが選んだ、僧侶への道」を紹介する>

二人の子を持つ母・岡本有子さんが選んだ、僧侶への道

「Nritya Mandal Japan-日本ネパール密教チャルヤ・ヌリテャ協会」を主催する岡本有子さん

「Nritya Mandal Japan-日本ネパール密教チャルヤ・ヌリテャ協会」を主催する岡本有子さん

『Nritya Mandal Japan-日本ネパール密教チャルヤ・ヌリテャ協会』を主催する岡本有子さん。
https://www.facebook.com/charyajapan
写真提供:岡本有子
僧侶になる決心をした岡本有子さんは、2014年に6人の知人たちにお祝いをしてもらいながら交互に頭を剃ってもらい、坊主になった。「四度加行(しどけぎょう)」で比叡山に2か月こもらないといけないが、当時下の娘はまだ高校生。長年ネパール舞踊を研究し、ネパール舞踊家としても活躍していた岡本さんは、娘が大学に入るまでは舞踊の仕事も続けていたので、その間髪を剃ることをやめていた。

岡本さん「2016年に、10人くらいの友だちに再び剃ってもらって。そこから、ネパール密教の僧侶の舞は舞うけれど、ネパール民族舞踊は引退を決めました。ウィッグをつけて、僧侶を隠して踊るのは嫌なので」

僧侶のなかには学校や企業に勤めている人もいて、周囲への気遣いもあってウィッグを付けている人もいるという。岡本さんは僧侶になると決めたのでウィッグを付けていなかったが、職場の人に言われてウィッグを付けざるを得なかったことがあった。

岡本さん「整体院で仕事をしていたときに、お客さんがびっくりしたり怖がったりするからウィッグを付けてほしいって言われて、5000円くらいの安いウィッグを買って付けてたけど、蒸れるし頭皮にブツブツができてかゆいし痛いし」

ウィッグをやめたかった岡本さんは、ウィッグを付けていることがお客さんにバレバレで、逆に気を使わせてしまうこともあったと職場の人に伝え、最終的にウィッグをしなくてもよくなったそうだ。

癒しの女神アルヤ・タラを舞う岡本さん

癒しの女神アルヤ・タラを舞う岡本さん

福岡の南蔵院にて、癒しの女神アルヤ・タラを舞う岡本さん。
写真提供:岡本有子
神奈川県で暮らす岡本さんは電車をよく利用するが、電車に乗るとじろじろ見られたり目を反らされたりするのが日常的だという。

岡本さん「私の横の席には、誰も座らないことがよくある。席が空いてるのを見て座ろうとしたときに私を見て、座るのを止めるのもしょっちゅう。驚いたことに、電車内でじっとにらんできたあとに体当たりしてきた女性もいる」

それは坊主頭をさらしている女性が周りにおらず、見る機会もなく違和感を与えてしまうからなのではないかと岡本さんは想像し、「まだ私は煩悩だらけでオーラもなく、僧侶らしく見えないから」と笑った。

お坊さんに慣れている京都では、神奈川や東京とはまったく異なる状況だという。歩いていても、スーパーに行っても、何をしていてもみんなふつうで、居心地がいいという。名古屋では尼僧のことを「安寿様(あんじゅさま)」と親しみを込めて呼び、滋賀県では手を合わせてあいさつされることもあるそうだ。

ヘアドネーションとウィッグの必要性について

米山さん「自分も人毛のウィッグを使わせてもらって、それによって出かける力をもらったから、意味があることだと思う」

何が嫌かというと、「可哀そう」という同情を受けるのが嫌。いちいち説明するのが面倒で対応するのが嫌だから、ウィッグを付けていたこともあったそうだ。「説明が面倒」というのは、正木さんや岡本さんにも共通している点だ。

談笑する米山さんと正木さん

談笑する米山さんと正木さん

談笑する米山さんと正木さん。
正木さん「服にこだわっていた友だちがガンで闘病していたときは、ウィッグで過ごしていたみたい。そういう人にとったら、すごい助けになると思う」

米山さん「髪があってもなくても自分は自分と思えれば、人からどう言われても気にならなくなる。大学病院に行ったときは子どもの患者さんが多くて、自分が思春期だったらものすごい絶望しただろうし、悩んだだろうなと想像した。一番自分の容姿を気にしているときにそうなったらどんなだっただろうとか、自分がその子の親だったらどんな気持ちになっただろうって想像すると辛いかな」

髪を失ったことで悩んでいる人に対して、「偉そうには言えないし、本人でないとその苦しみは分からないから千差万別だと思う」と岡本さん。

ネパールでチヤを飲む岡本さん

ネパールでチヤを飲む岡本さん

ネパールのジャナクプルで、甘く煮だしたミルクティー「チヤ」を飲む岡本さん。
写真提供:岡本有子
岡本さん「どんな人でも、そういうあなたの姿をまったく気にしない人間もいるよってことを、何らかの形で伝えてあげたい。じろじろ見たり、変に同情したりする人もいると思うけど、そうではなく心から気にしない人もいますよってことをお伝えしたい。それだけは絶対、私が自信を持って言えること」

筆者がヘアドネーションを知ったきっかけは、イギリスに住む友だちの息子が3歳で白血病になって闘病したことだった。今はすっかり元気な18歳に成長しているが、彼は闘病後から16歳になるまで3回ヘアドネーションを行ったという。「彼が人のためになる活動をすることは、病気で辛い思いをした心を癒やすプロセスみたいなものになっていた」と、彼の母親は話した。

日本でも、男女に関わらず小学生がヘアドネーションを行ったという記事を新聞で目にすることがある。男の子が髪の毛を伸ばしていることでからかわれることもあったようだが、最後までやり遂げた写真の表情は、達成感で満たされて誇らしげだった。ヘアドネーションの存在が、この男の子にとっていい経験になったことは間違いない。

もし今、私が自分の意思に反して坊主になってしまったら、堂々と坊主のまま外出できるかどうか正直分からない。やっぱり、隠したいという気持ちが湧いてくると思う。ウィッグを付けて過ごし、ウィッグのメリット・デメリットを体験したあとでどうするかを選択するかもしれない。

結局のところ、ウィッグを付けても付けなくても、本人がそうしたいならそうすればいいのだ。大切なのは、本人が選択した結果をふつうのこととして受け入れられる環境ではないだろうか。みんなの日常のなかに美しい坊主頭や、いろいろなウィッグをしておしゃれを楽しむ人たちの姿が増えていけば、違和感なく受け入れられる人たちも増えて、坊主やウィッグを自由に楽しめる人たちがまた増えていくのではないだろうか。

まずは自分が自分を受け入れる。そうすれば、そんなありのままのあなたを受け入れてくれる人たちが現れて増えていく。必ず!!

写真:正木衣子、岡本有子、鍋田ゆかり ※順不同
文:鍋田ゆかり
ライター。身近な面白い場所や人を取材するのが好き。築100年以上の古民家で、犬猫ヤギとともに田舎暮らしを堪能中。自転車キャンプ、犬連れ車中泊しながら自然を満喫するのが好き。https://awaawalife.com/

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