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読みはトゥーン?2004年に誕生したTOON CITYの実態に迫る。

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英語でTOON CITYこと愛媛県東温市は愛媛県の県庁所在地・松山市に隣接する県中部に位置する市だ。平成の合併で生まれた市の名前だが、由来は古く道後温泉を含む「温泉郡の東」という意味を持っていた。気になる読みは「とうおん」が正解。しかし、英語圏の人はトゥーンと読むかもしれない。そんな東温市は合併以降「舞台芸術」の文化をまちづくりに活用している。地域を題材にしたミュージカルが年間公演される「坊っちゃん劇場」を市内に抱え、移住・定住施策に独自の「アートヴィレッジとうおん構想」を掲げる東温市、TOON CITYを紹介する。

目次

愛媛・松山の隣、TOON CITY

四国・徳島県徳島市から香川の高松を経由して瀬戸内側を愛媛・松山に至る国道11号線。
松山方面へとこの国道を進むと、やがて松山市の東に隣接する「東温市」を案内する道路標識が目に入ってくる。
標識の案内を尻目に「ここまで来れば松山へあと少し」などとホッと息をつき、やがて考える。「さっきの東温市って、何て読むのだろう?」

東温市の道路標識
東温市の道路標識

全国津々浦々、どの道路標識にも市町村のローマ字表記がある。
東温市の場合は・・Toon cityだ。Toon・・トゥーン?トゥーンシティ?

Toon town、トゥーンタウンとは、かの東京ディズニーリゾートにある架空の街のアトラクションだが、それが突如、しかも大きくなって愛媛に出現したのだろうか。
かつてラフォーレ原宿松山店のあった過去もある愛媛だが、まさか・・。

いったんここは冷静になろう。これは英語表記では無くローマ字表記なのだ。

 

正解は「とうおん」東の温。

ローマ字表記でTOONの東温。正解は「とうおん」と読む。
東と温。どちらも音読みという非常にシンプルな名前だ。

2004年、平成の大合併により誕生した東温市の名前の由来は、合併した旧二町(重信町・川内町)がかつて温泉郡に属していたことに遡る。

「温泉郡の東(の町)」という意味だ。
温泉郡というくらいだから、松山市を含むかつての郡各地に温泉が分布する。

最もメジャーなものは愛媛を代表し日本最古の温泉とも言われるあの道後温泉だ。

人口は約34,000人。市政要覧によると、市内に愛媛大学医学部があることからそれを核に医療と福祉が充実し、自動車のみならず鉄道・バスの公共交通機関での松山へのアクセスも良好だ。

TOONは漫画・アニメ。東温は舞台芸術。

さてtoonという英単語には、漫画やアニメを表すcartoonの簡略表記の意味がある。

今や世界中に存在する「文化」となった漫画・アニメだが、偶然にもここ東温にもオンリーワンのまちづくりを目指して取り組んでいる「文化」がある。それは舞台芸術だ。

2004年の合併による誕生以降、東温市は舞台芸術によるまちづくりを行なってきたのである。

 

東温市といえば坊っちゃん劇場

東温市の舞台芸術によるまちづくりの中心となったのが、2006年にオープンした坊っちゃん劇場だ。

坊っちゃん劇場
坊っちゃん劇場
坊っちゃん劇場公演「鶴姫伝説」
坊っちゃん劇場公演「鶴姫伝説」

四国や瀬戸内地方の歴史や文化をモチーフとした自主制作ミュージカルの公演を年間に200回以上行なっている。
客席は約450席。これまで15作品を制作し、2020年秋には累計入場者数が100万人を突破した。
役者・スタッフは東温市で生活を送りながら舞台を作るのだ。

劇場は温泉施設やショッピングモールを含む複合施設の一部となっており、観光客の受け入れにも十分で、修学旅行や研修旅行の受け皿にもなっている。

さらに劇場内での公演だけでなく、役者の演劇スキルを活用した研修や市民ミュージカルの制作などで地域との交流を図っており、市民に愛される存在となっている。

また「東温といえば坊っちゃん劇場のあるところ」と、市外への認知度にも貢献している。

 

アートヴィレッジとうおん構想とは

さらに最近では、東温市は人口減社会に対して移住・定住の促進を目的に「アートヴィレッジとうおん構想」を掲げている。

その構想の拠点となる「東温アートヴィレッジセンター」公式サイトによると、

「アートヴィレッジとうおん構想」は、都市の利便性と農村の緩やかな暮らしが調和する愛媛県東温市で、アーティストの受け入れ促進と、芸術に気軽に触れることができる環境づくりを進め、多様性と創造性にあふれた、全国に誇れるまちづくりを目指すものです。
本構想では、地域文化を発信する「坊っちゃん劇場」を核として、舞台芸術に関わる「仕事」と「学びの場」を創出し、全国から活動の場を求めているアーティストが東温市に集うような各種取組を進めます。
また、アーティストの活動を通じて、地域の魅力を凝縮した独自性の高いコンテンツが生み出され、これを国内だけでなく世界に向けて発信することで、「東温市に行ってみたい」「東温市に住んでみたい」と思ってもらえる場所になることを目指しています。

引用元 https://art-village-toon.jp/about/ 

と記載されている。

具体的には坊っちゃん劇場とは別に、創造活動の拠点となる「東温アートヴィレッジセンター」を開設・運営して文化芸術の快適な創造と体験・発表の場を提供し、また文化芸術にまだ魅力を感じていない方々向けには「文化芸術の入口」としても機能させる、といったものだ。

その結果、舞台芸術を通じた街の魅力向上が人の移住・定住を生み、雇用が生まれるという「まち・ひと・しごと」が循環した「舞台芸術の聖地」を目指すというのだ。

実際に2016年から行われた取り組みの成果はどうか。
東温アートヴィレッジセンターと東温市役所に話を聞いた。

東温アートヴィレッジセンターの施設の一つ、シアターNEST
東温アートヴィレッジセンターの施設の一つ、シアターNEST

 

アートヴィレッジとうおん構想の現在地

まずズバリ移住・定住者は増えているのだろうか。
東温市によると、人口全体は年々逓減しているものの、人口動態は平成28年から令和2年までの5年連続で社会増となっており、この5年間の累計では約770人増えている。
そのうち構想に関わるアート系人材も地域おこし協力隊なども活用して約20名がやってきたという。

次に拠点施設の活用だが、東温アートヴィレッジセンターの来場者数は初年度の2018年度に約11,000人、2019年度には約14,000人となっている。
新型コロナウィルスの感染拡大の影響により2020年度は約10,000人だったが、東温市ではコロナ禍が去り2025年度までに年間利用者25,000人を達成したいとしている。

東温アートヴィレッジセンターの坂井仁さんは、日々施設利用者に接する中で

坂井さん「施設ができて、朗読や創作ダンスなどを気軽に始める市民の方も増えていたり、舞台芸術を身近に感じてもらえるようになった。『自分が参加してもいいんだ』と。小学生低学年の子が将来プロの俳優になりたいとか、80歳代の方が演劇を始めてみたりとか。それはセンターのできた成果と感じます」

と話す。

シアターNEST内観
シアターNEST内観

主な事業としては「とうおん舞台芸術アカデミー」を開催して、舞台芸術の人材育成を行なっている。
2020年度には154講座を開催し約600人が参加した。そのうち昨年9月からはミュージカル俳優講座が始まったが

坂井さん「近い将来ここからプロが出てくるだろう」

という手応えを感じている。

また2018年度から「東温アートヴィレッジフェスティバル」を毎年開催しており、その中で全国公募の戯曲賞「TOON戯曲賞」なども開催することで、全国の舞台関係者の認知も高まっている。

センター外での活動も行なっていて、棚田が広がる地域の古民家での演劇公演、農家レストランでの音楽ライブなどを試行してきており、2020年度は地元商店街をアート空間にする「とうおんアートストリート」が好評だった。

今年度は、アーティストが中山間地域に滞在し、地域景観をそのままインスタレーション的な手法で演劇にするプロジェクトが動いており、地域にアートを根付かせる取り組みを継続的に実施する。

また世界で唯一とも言える8K映像技術で舞台芸術の流通を図る「8K映像演劇」プロジェクトが進行しており、コロナ禍で今後の活動が文化庁からも期待されている。

アートヴィレッジとうおん構想の今後

最後に東温市役所地域活力創出課、高橋悠治さんに構想のこれまでと今後について聞いた。

高橋さん「アートヴィレッジとうおん構想の一環として2017年度に上演した市民ミュージカルの出演者から、大手芸能事務所の全国コンテストで最優秀賞を獲得し全国デビューを果たしたスターも生まれています。

また、同市民ミュージカルへ出演した子ども世代の中には、大学で舞台芸術を学び、研究の成果をアートヴィレッジ構想に還元したいと言ってくれている大学生もおり、舞台芸術に関わる若い世代が育っていることから、シティブランドの確立とシビックプライド(市への愛着と誇り)の醸成に、着実に効果を上げていると感じます。
 
市民に身近な芸術表現の場という側面と、全国からプロのアーティストが集まるような独自の魅力創出という側面をどう両立させるかが課題です。

利用者の意見を見ても『プロとアマが混在しながら様々な活動や創作ができる場所になっていってほしい』との意見もあり、坊っちゃん劇場に多数の俳優や専門人材が毎年在籍し、地域おこし協力隊としても多様な人材を呼び込む現在の状況を継続すれば、他にない芸術拠点になる可能性を感じています。」

坊っちゃん劇場公演の稽古の様子
坊っちゃん劇場公演の稽古の様子

「アートヴィレッジとうおん」はコロナ禍に活かされるか

冒頭に紹介したように医療・福祉が充実し、都市へのアクセスと自然環境のバランスが良いというのが東温市の強みである。
その東温市が舞台芸術の聖地を目指し、まちづくりを行なっている。

東温市の移住・定住支援ポータルサイトでは実際にアートヴィレッジとうおん構想の実現に東温市に移住した方達の体験談や思いを垣間見ることができるので、そちらも是非ご覧いただきたい。

さて現在コロナ禍の中、舞台を含む多くの文化芸術事業が苦境に立たされている。

それは単に公演などが打てないというだけでなく、制作活動にも大きな影響を及ぼしている。

もし仮に今後制作者に「密を避け、医療体制の充実した、新しい創作環境」が必要になるのであれば、先の東温市の強みを活かし、アーティストが集い、育つことを目的とするこのアートヴィレッジ構想に、これからより多くの注目が集まるかもしれない。

アートヴィレッジとうおん構想に、新しい時代の予感がした。
 

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