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連載 | とおくの、ちかく。 北海道・東京・福岡

冬よ、こんにちは。

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「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住むまちをおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人(北海道より畠田大詩・東京より竹中あゆみ・福岡より中村紀世志)の連載。第7回は、熱波が続いた北海道・東川町から、ひと足早く冬の訪れにご挨拶。

目次

強烈な夏を超え、ひと足お先に冬に向かいます。

ー今回の書き手:畠田大詩

僕は登山が好きで、夏はちょこちょこと山へ足を運ぶ。
北海道の山は、日本アルプスのような3000メートルを超える標高故の「切り立った」ような強烈な風景は少ないが、逆にどこまで遠くを見渡しても大地が続く、気の遠くなるような「広さ」を感じるのが特徴だと思う。なんとも言えない心地よい気持ちになれて、「でっかいどー!」と叫びたくなる(古っ、そしてベタっ)。
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広すぎて、視覚がおかしくなりそうな山の上からの風景。
僕の住む東川町には、北海道最高峰の「旭岳」がある。山の高さは2291メートル。町役場の人たちは、「にんにくいちばん」と語呂合わせで覚えていたりする。緯度が高いので環境の厳しさは3000メートル級並といわれている。
旭川市や東川町側から見るとその姿がはっきり見え、昔からアイヌの人々に「カムイミンタラ(=神々の遊ぶ庭)」と呼ばれていたことをすぐに納得できる美しい形。そしてこの山の美しさは、その形だけでなく、もくもくと山の裾野から出続けている噴気だと僕は思っていて、陽を浴びて輝く水蒸気は山の雄大さを強固なものにする。近くで見るたびに、見惚れてしまうのだ。
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7月下旬、早朝の旭岳は太陽を背にして神々しく輝いていた。
夏。旭岳の中腹にある「姿見」と言われる標高約1600メートルの地点には、短い生命を謳歌するためにたくさんの高山植物たちが一気に花が咲き乱れ、訪れた人間の目を楽しませてくれる。旭岳は「チングルマ」という花の群生地として有名で、7月下旬がこの花の見頃。先日、満開だと聞きつけたタイミングで登ってきたが、旭岳を背景にしたその景色は壮観だった。
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チングルマの花(左)と、花が咲き終わった後の綿毛(右)。チングルマは花が散った後も楽しませてくれる。
まさに今が夏山の絶頂のシーズンなのだけれど、この町に越してきたときに山の話でまず驚いたのは、この山の「冬」の長さだった。雪がなくなるのは、ちょうどこの時期の1〜2か月だけ。毎年、9月には初冠雪のニュースが流れる。そこからはみるみるうちに山の雪化粧が進み、次に山肌を表すのは5月の後半。GWが開けるあたりまではしっかり雪に覆われていて、「GWまでは、アクティビティとして山の上でスノーハイクが楽しめるよ」と教えてもらったときは、季節のギャップに目を丸くした覚えがある。都心で過ごしていた時は、GWなんて「夏の助走期間」な感じでいつも汗ばんでいた記憶があって、そんな時期にまだ雪が積もっている(というか、まだ雪が降っている)ことに混乱していた。
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4月中旬の旭岳は、まだまだ真っ白だ。
今年の北海道(特に、東川を含む旭川周辺)の夏は本当に暑くって、東川町も8月6日に観測史上最高の37.0度を叩き出した。北海道はクーラーのない家がわりとたくさんあるのだけど、さすがに今年は暑さに参っている人が多かった。
「早く涼しくなってくれ…」と、町の人たちとこの1か月ずっと話してはいたものの、強く願い過ぎたのか、8月10日の最高気温は16度まで下がった。さらに8月12日の最低気温は9度。1週間以内の気温差がなんと約28度。いくらなんでもそこまで涼しくなってほしいとは言ってないのだけれど……。
何はともあれ、「冬」がもう顔を出しはじめたということだ。旭岳もあと1か月先には短い秋が訪れて、そのあと2週間もすれば雪が降りはじめるはず。東川のまちなかも、それを追いかけてすぐに白くなるだろう。あまりの変わり身の速さを目前に「なんてこった」と、目まぐるしく変わる季節にくらくらしながらも、その先にある長い冬の訪れをどこか楽しみにしている自分もいる。真っ白な世界は、夏にざわついた気持ちをきっと落ち着かせてくれる。
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雪が降ると、すべてが白に包み込まれ、広く静かな世界が訪れる。
北海道の夏は、もうすぐ終わる。全国のみなさん、「ひと足お先に、僕たちは冬に向かっています」と、変な優越感に浸りながら残りわずかになった残暑を楽しむとしよう。
photographs & text by Daishi Hatada
畠田大詩/1988年京都市まれ。「写真」を軸にした出版・イベント・教室・展示等を運営する会社にて、企画や営業、雑誌・Webメディアの編集・執筆、イベント運営まで多岐に渡り経験。写真を活用した地域活性化プロジェクトの企画運営やディレクションなども担当した後、2020年4月から、地域活性化企業人として北海道東川町役場に勤務。東川スタイル課にて、ブランド推進の企画や情報発信に携わる。https://www.instagram.com/daishi1007/
竹中あゆみ/1986年大阪府生まれ。雑誌『PHaT PHOTO』『Have a nice PHOTO!』の編集・企画を経て、2016年より『ソトコト』編集部に在籍。香川県小豆島の『小豆島カメラ』など、写真で地域を発信するグループの立ち上げに携わる。東京を拠点に取材をとおしてさまざまな地域の今を発信しながら、ライフワークとして香川県小豆島や愛媛県忽那諸島に通い続けている。https://www.instagram.com/aymiz/
中村紀世志/1975年石川県生まれ。機械メーカーの営業として勤務しつつ、フォトグラファーとしての活動を続けたのちに、2014年、結婚を機に福岡へ移り住みカメラマンとして独立。雑誌やWebメディアの取材、企業や地域のブランディングに関わる撮影を行う一方で、大牟田市動物園を勝手に応援するフリーペーパー「KEMONOTE」の制作や、家族写真の撮影イベント「ズンドコ写真館」を手掛けるなど、写真を通して地域に何を残せるかを模索しながら活動中。https://www.kiyoshimachine.com

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