東京都内にある三輪田学園中学校で、講演を行った環境活動家・露木志奈さん。温暖化によって人類が地球に生き続けられるかどうかのターニングポイントにある今、20歳の露木さんが、ともに未来を生きる若者たちに呼びかけることとは?
世界で最もエコな学校で、ナチュラルな化粧品を開発。
その経験から化粧品に興味を持つようになった露木さん。『グリーンスクール・バリ』で、妹が安心して使える本当にナチュラルな化粧品を開発しようと思い立った。「ただ、開発を行う申請を学校に出すことは躊躇しました。社会的な活動を始めるのは大人になってからという先入観を持っていたからです。でも、そんな私の背中を押してくれたのがスクールの友達でした。『Bye Bye Plastic Bags』というバリ島のレジ袋をゼロにする団体を立ち上げた12歳と10歳の姉妹の妹のメラティ・ワイゼンの『You don’t have to wait till be a grown up to make a change.(何かを変えるには大人になるまで待たなくていい)』という言葉。彼女たちの活動は、パリ島のレジ袋を撤廃するための法律を制定させ、やればできることを示したのです」。10代の姉妹の行動力に勇気を得た露木さんは、学校で口紅の開発を始めた。「その過程で、動物実験やプラスティック容器の流通、原材料をつくるために行われている児童労働など、新たな課題が次々と見えてきました」。
スクールを卒業し、帰国した露木さんは慶應義塾大学へ進学したが1年で休学し、2020年11月から講演活動を始めた。「居ても立っても居られなかったから。あるイベントでスクールでの体験を話したとき、『なぜ日本人は環境意識が低いのか?』と参加者から尋ねられました。私は、『情報が入ってきていないからだと思います』と答えましたが、すぐに『だったら、私が探求の大切さを伝えよう』と思ったのです。世界の現状と私の経験を伝えることで、『自分にもできるかもしれない』と行動に移してくれる同世代の若者が少しでも増えてくれたらと期待して、小学校から大学まで全国の学校に足を運び、呼びかける毎日を送っています」。
自分は、原因側か解決側か。「日々の選択」が大切。
ただ、便利な生活に慣れた人にとって、常に環境優先の選択をすることは簡単ではない。夕食の買い物一つとっても、どれを買うのが正しいのか悩むばかりだ。「ベストではなく、ベターな選択でいいと思います。さらに、頭をもう一ひねりしてみてください。どんなに環境にやさしいと謳っていても負荷はゼロではありません。ソーラーパネルだって、設置や廃棄の仕方によっては環境に負荷を与えます。懸命に悩んで環境にやさしい商品を買うのではなく、すでにあるものを活用したほうがベターな場合もあることに気づいてほしいです。つまり、買わないという選択。私は、洋服はほとんど新品を買いません。妹や母のお下がりか、フリマアプリで探して買っています。服装にはあまりこだわらないので、それで満足です」。
3Rというエコの行動指針がある。Reduce(リデュース/減生産)、Reuse(リユース/再利用)、Recycle(リサイクル/再資源化)。露木さんの洋服の買い方はリユースにあたり、リサイクル商品よりも環境負荷は低い。いちばん環境負荷が低いのは、つくる数量を減らすリデュースだ。「大量生産、大量消費、大量廃棄という経済活動によって世界は豊かになりましたが、同時に地球温暖化が引き起こされています。便利で豊かな世の中をつくってくれた先人たちには感謝しつつ、私たちが生きる未来をつくるために、一緒に方向転換していきたいのです」。
そのために大事なのは、自分を変えること。無意識な選択によって環境に悪影響を与えている、あるいは、温暖化に気づいているのに「ちょっとだけなら」と気づかないふりをすることで環境に負荷を与え続けている。そういった行動を変えない限り、地球温暖化は防げない。「もちろん、強要はしません。行動を起こすか否かはその人の自由です。20世紀に行われた市民活動や社会革命は、そのコミュニティの3.5パーセントの人たちが賛同すれば成功するという、ハーバード大学公共政策大学院のエリカ・チェノウェス教授の研究結果があります。温暖化を止めることも地球規模の社会革命だとするなら、3.5パーセントの人たちが動けば成功するのです。そんな希望を持って私は訴え続けています。自分という小さな世界を変えることから始めましょう。誰かからではなく、あなたから」。
自分が変われば、人類の未来も変わるという、まるでSF映画のようなことが今、現実に起ころうとしている。行動を起こすか、起こさないか──。その選択が、人間や生き物が地球で生き続けられるかどうかのターニングポイントになろうとしている。