私たちが旅に出る支度をしているとき、いつもとは違う非日常な世界を頭の中に思い浮かべては、ワクワクしながら鞄にあれこれ詰め込んでいくもの。せっかくなら、あのお気に入りの服も一緒に連れて行って、ご機嫌な気分で過ごしたいと考えます。
しかしその一方で、旅には不安が付き物。思いがけないハプニングがあるかも…。急にディナーのお誘いを受けたなら、手持ちの洋服でもドレスコードは大丈夫かな…。しばしば私たちは、旅行バッグの限られたスペースと相談しなくてはいけません。できるだけ荷物は必要最低限にとどめて、旅を最高な思い出にしたい。旅好きな私たちを悩ませる積年の問題です。
100年愛用できる、メイドイン久留米の旅衣
via 井上食堂(Curio graphy inc.)
“旅は、まとう衣でずっと楽しくなる。”
そう提唱する「IKI LUCA-for your 100 year journey- 」は、こころが弾んで100年愛用できる旅衣を提案するブランド。機能的にも、着心地も、旅人の移動や滞在に寄り添ってくれるウェアアイテムを生産・販売しています。
地元・久留米のために何か自分にできることをしたい。
IKI LUCA代表の小倉知子 さんは、そんな想いからオリジナルブランドを立ち上げました。IKI LUCAのブランドコンセプトを“旅衣”たらしめる大きな柱となっているのは、日本三大絣(かすり)の1つ「久留米絣(くるめがすり) 」。久留米の伝統工芸品である久留米絣を100%使用しており、その存在を世界へ発信すべく事業を展開しています。
via 秋山フトシ
着心地良し、使い勝手良し、さらに丈夫で長持ちな久留米絣。今でこそ機能的な面を最大限生かしてブランドを展開していますが、最初は「地味」で「ダサい」イメージを持っていたという小倉さん。彼女がそんな久留米絣の製品を海外向けに展開しようと考えたのは、この伝統工芸品に“出会いなおした”原体験があったからでした。
寂れていく地元。うちもなんとかせんといかん。
小倉さん 「久留米絣といえば、久留米の人だったら大体知っています。でも、それくらい認知度は高いんだけど、深く理解している人は少なくて。当時の私がこの伝統工芸品に抱くイメージは、なんか地味だし、ダサい。特に意識もしていませんでした。」
via 秋山フトシ
高校進学を境に地元・久留米を離れた小倉さん。就職は金融業界に入りました。
帰省のたびに、少しずつ街の様子が変わり、賑わいが失われていくことに、寂しさを感じていました。
「うちもなんとかせんといかん。」
地元への想いは募り、小倉さんは久留米のために自分ができることを模索し始めます。
そんな折に出会ったのが、古賀円さん。久留米絣デザイナーとして活動していました。
新しい久留米絣に“出会いなおす”。
久留米で何かしたい。
まだ漠然とした想いだった小倉さんは、久留米を盛り上げようとする様々な人たちとコンタクトを取ることから始めました。
via 秋山フトシ
古賀さんもその一人。
久留米絣を広めるために活動をするその姿や、現代人の視点で“ファッションアイテム”として製品化された久留米絣を目の当たりに。とっつきにくい伝統工芸品ではなく、等身大の久留米絣に出会いなおしました。
また、八女にある地域文化商社「うなぎの寝床 」でも、久留米絣を使った「もんぺ」が販売されていたりなど、小倉さんはますます惹かれていきます。この時はまだ事業のことは頭にはなく、一人のユーザー・ファンとしての関係性でした。
via 秋山フトシ
旅衣としての可能性、身をもって実感
金融関係の仕事をしていた小倉さんは、当時シンガポールに住んでいました。仕事でもプライベートでも海外に行くことが多く、飛行機での移動もしばしば。そんな時に、絣の赤いスカートが大活躍でした。
海外をエンジョイする小倉さん
小倉さん 「たとえ海外でも、ガシャガシャ使える絣のスカートをとても重宝していました!頑丈なのでケアしなくていいし、簡単に洗えてすぐに乾く通気性も◎。飛行機内の乾燥した空気で静電気を起こすこともないんです。何より魅力的なのは、折り畳んでコンパクトにできるところ!荷造りが大の苦手な私にとっては、この一着で繰り返し着回せることがとっても助かりました(笑)」
久留米絣の赤いスカートは、小倉さんのライフスタイルならではの着眼点で、個人的に愛用するウェアアイテムとなっていました。
南米で出会ったマダムが教えてくれた、海外展開のニーズ
ある時、南米に滞在していた小倉さん。ここで出会ったニューヨーク在住のマダムが、小倉さんに転機をもたらしました。
宿泊していたホテルは、自然の中に囲まれており、日中は様々なアクティビティに参加できました。アクティビティに参加するときはスポーツウェアなどを着用し、ホテルに帰って来ればいつも絣の赤いスカートに着替えて過ごしていた小倉さん。
小倉さん 「赤だから目立っていたということもあったのでしょうが、私がいつもそれを着ていたから、自然とみんなの目にも入っていたと思います。ふと、宿を同じくしていたマダムから声を掛けられました。そのスカート素敵ね!って。」
そして、「私もそれが欲しいわ。どこで買えるのかしら?」と尋ねられたのです。小倉さんが推測するに、オンラインで購入できるはずだという価値観の元、何気なくマダムは問いかけてきたのではないかと思われました。
しかしその時はまだ、海外の人が久留米絣の製品を手に入れるチャネルはほとんどありませんでした。
via Jon Bewley
「あ、私こういうのできるかも。」
久留米絣をグローバルにブランド展開する。ふとよぎった道筋が、小倉さんの中できらりと閃きました。
キーパーソンと繋がり、対話を重ねる
「久留米絣×旅」。この降ってきた閃きで、私のオリジナルブランドを作りたい。
古賀さんにも本格的に相談を持ちかけ、どうすれば形にできるかを探っていきます。
小倉さん 「とにかくファッションアパレルについて、そして久留米絣について勉強しなくてはいけませんでした。円さんが紹介してくださった
下川織物 さんは、私が職人さんに抱いていた個人的なイメージとは異なり、まだ曖昧な私の構想をちゃんと聴いてくれたんです。しかも、まさに私が愛用していた初代絣の赤いスカート(既製品)の生地を作っている織元さんだったり!それ以外にも、色んな偶然がたくさん重なりました。」
下川織物さんと小倉さん
織元さんだけでなく、小倉さんのアイデアは多くの人を巻き込み、その世界観を輪郭あるものに近づけていきました。
小倉さん 「私はパターンも引けないし、ファッション業界の知識が豊富にあるわけじゃないんです。でも、意思ある行動を取れば、適切なヒトと必然的に引き合わせてくれると思っていて。WEBサイトを作る時も、言葉一つ一つを吟味して、自分がイメージするコンセプトにしっくり来るワードを言語化していきました。言葉の壁打ちに付き合ってくれる人たちがいてくれて、すごく助かりました…!」
via @film_art_laulea
少しずつ「久留米から世界へ」を合言葉に、ブランドイメージを構築していきました。まずは、ニューヨークのあのマダムに久留米絣のスカートを届けるために。
サステナブルな価値観で捉え直す「久留米絣」
また、小倉さんのファッションへの向き合い方も、IKI LUCAの世界観に影響を与えています。
小倉さん 「どちらかといえば、ファッションには興味がないほうです(笑)ありのままでいたいんですよね。昔は流行りを追いかけたこともあったけど、それで何度か失敗も経験したからなのかもしれません。それよりも、ずっと着ていられる必要十分な一枚を持っているほうが心地いいんです。」
via @film_art_laulea
各国を飛び回るライフスタイルを送っていた小倉さんは、無意識のうちに、毎年ヨレずに使い続けられる久留米絣を選んでいました。サステナブルな価値観と、旅を楽しみたいという願望とが、織り成しあって“小倉さん自身が身に纏いたいもの”を表現しているのです。
小倉さん「直感は、過去の自分の積み重ねだと思って、大事にしています。IKI LUCAの商品も、世界観やコンセプトから手に取って欲しい。伝統工芸品であることにあぐらをかかずに、モノとしての良さを肌で感じてもらった上で、久留米絣の品質を知ってもらいたいなって思います。」
via 井上食堂(Curio graphy inc.)
地元のために何か自分もできることはないか。
スタートこそまちのためでしたが、行き着いたのは小倉さん自身が感じたニーズのため、オリジナリティのあるブランドとなりました。たくさんの人との関わりや出会いを糧にしながら、“等身大の久留米絣”を世界中の旅好きなへユーザーの元へと小倉さんは届け続けます。
Text:森 恭佑
写真提供:小倉知子
TOP画像:@film_art_laulea